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ソフトウェアものづくり能力獲得競争

2007年度を迎えるにあたって、わたしが身をおくソフトウェアビジネスの現状をおおまかに振り返ってみたいと思います。このブログをご覧になる方は、ソフトウェアになんらかのかたちで携わっておられる方が多いでしょうから、あえて『わたしたち』が身をおくソフトウェアビジネスと言っても良いかと思います。

ちなみにソフトウェアビジネスとは、『ソフトウェアを開発し、プロダクト(製品)・システムまたは、その一部としてソフトウェアを提供することで、収益を獲得するビジネス』と、とりあえず定義しておくこととしましょう。

プロダクトを開発・生産し、それを提供することで、収益を獲得するビジネスは、日本がとても強いとされる製造業 -いわゆる『ものづくり』業-ですが、ソフトウェアは、製造業で生産されるプロダクト-例えば自動車、デジタル複合機や携帯電話-に組み込まれるだけに留まるわけではありません。

かってシティバンクのバイスプレジデントが「わたしたちは金融業の仮面を被った情報サービス業である」といみじくも言ったように、ソフトウェアは、企業または企業グループという、特定の事業目的を達成するために構築された、複雑なシステムの一部として組み込まれ、その事業目的の達成や業務効率化に、欠かせないものともなっています。

これは、金融業のみならず、製造業、流通業、小売業、医療、通信など、ありとあらゆるビジネスに共通して言えることであることは、言うまでもないことでしょう。

そしてそれらプロダクト・システムに占めるソフトウェアの役割が、わたしたちの想像をはるかに超えて巨大なものになっているのです。例えば製造業のある領域で、ハードウェアを含めた開発・生産するプロダクトの、開発費全体に占めるソフトウェア開発費の比率が、3割、5割、7割と上昇している領域があるという現実をどうみるでしょうか。

目に見えるハードウェアに見えるプロダクトの全体の開発費に占めるソフトウェア開発費の比率が、全体の7割になったとき、そのプロダクトを、『ソフトウェアを組み込んだハードウェア・プロダクト』と呼ぶことができるのでしょうか。それとも『限りなくソフトウェア・プロダクトに近いプロダクト』なのでしょうか。少なくとも、ソフトウェアの役割が以前よりも大きくなった『ハードウェア・ソフトウェア統合プロダクト』であることは間違いないでしょう。

しかしこの現実の裏側に、日本経済の将来にも影響を与えかねない、重大な問題が隠されています。

このますます重要になっていくソフトウェアの開発・保守が、旧態依然の極めて非効率な方法で行われているのです。

その結果として、ソフトウェアを統合したプロダクトの提供者は、つくりこまれたソフトウェア欠陥の処置コストや、顧客満足・ブランドの低下という品質問題にあえいでいます。あるいは抜本的なしくみの見直しに目をつぶった対処療法的な対応-その対処手段の多くは人員の追加-は、そのまま莫大なムダを黙認する結果となり、ひるがえって高コスト構造を抱え込んだ、ソフトウェアの開発・保守を継続せざるをえない状況となっています。

しかしこの状況をこのまま放置しておくことは許されません。ソフトウェア統合プロダクトを開発・提供するメーカーを例にとると、かって10万ステップ程度であったソフトウェア規模が、ある日100万ステップを超え、さらにここ数年で500万ステップ、1、000万ステップを超えているのです。その企業のビジネスが成功し、成長している限り、その企業のビジネスを支えるソフトウェアが成長し、大規模化するのは当然のことです。

しかしソフトウェアの大規模化は、さらなる複雑化を意味します。そしてその複雑化があるしきい値を超えたとき、根本的な対応のないマネジメントは破綻しかねない現実があることを意味しているのです。

これが例えば製造業で起きたとすれば、日本経済を支える製造業が、グローバルな競争力を失うことに直結します。「高品質」を誇る日本の「ものづくり競争力の衰退」を意味することになります。

わたしたちは今、直接ソフトウェアの開発・提供に携わる、携わらないに関わらず、「世界のお客様のニーズを満たす多種多様で、したがって極めて複雑で大規模なソフトウェアを多量に、しかも高品質・低コスト・短納期で開発・提供しなければならない時代」に直面しているのです。

わたしたちは、この現実をまっすぐに見つめて、わたしたちに突きつけられている、この課題を超越し、つぎの時代の成長・発展に向かうために、新しい「ソフトウェア開発・提供の仕組み」を構築することが、必要不可欠な時代に突入しているのです。

このように、今、わたしたちには、わたしたちならではの、『ソフトウェアものづくり』の仕組みを創発し、それをわたしたちの能力として獲得することが避けて通れない時代に直面しているのです。

わたしはここ数年にわたって、この『ソフトウェアものづくり能力獲得』の課題に、なくて当然のマイナスの品質-つまり欠陥-を制御し、結果としてソフトウェア開発のムダを排除することによる、生産性と品質向上の両立を達成することに注力してきました。

そしてこの2007年度を始めるにあたって、わたしはさらに一歩踏み込んで、いまの私たちが直面する『ソフトウェアものづくり能力獲得競争』の課題に、まっすぐに取り組むことをコミットメントします。

欧米のグローバルなソフトウェアビジネスの基盤となりつつあるプラクティスを導入しながら、しかし欧米の単なる借り物のソフトウェア開発方法論を克服するために、日本の強いものづくりからプラクティスを獲得し統合して、日本のソフトウェアビジネスの新しいパラダイムの創発と形成に貢献するために、小さいけれども意味ある一歩を踏み出すことを約束します。

今年度もよろしくお願いいたします。

宗 雅彦
2007.1.1

※このコメントは、SQE Japanから配布しているレポート『ソフトウェアものづくり能力獲得競争」をベースにしています。ご興味がある方は、SQE Japanのホームページからお申し込みください。